継ぐ決断さえしなければ・・・

コラム:後継者の事業承継入門:承継不安の処方箋

HPをご覧頂き、ありがとうございます。

継ぐ!継がない?後継者の「決断指南書」研究会(略称:継ぐ研ネット)
代表の辻󠄀岡 珠磯(つじおか たまき)です。

このコラムでは、経営者を親にもつ皆様の、会社を継ぐ「不安」を、少しでも軽くする方法について書いていきたいと思います。

継ぐか、継がないか、いつか決断しないといけない後継者のみなさま
決断するための材料(情報)は、集まっていますか?

継ぐ会社は・・・

  • どんな経営戦略で?
  • どんな役職員と?
  • どんな店舗や工場で?
  • どんな市場で戦い?
  • 結果、財務状況はどうなのか?

実は、よく知らない・・・(笑   
ですよね?

どんな会社か知らずに、継ぐ決断を迫られる・・・不安になりますよね?
そうです。

後継者の「漠然とした不安」は、親の会社をよく知らないことが原因です。

しかし、社長に、詳しく教えて欲しいと言ったら、それこそ「継ぐ覚悟が決まったか!」
と喜んで、先走りそうで、自分からは聞きにくいもの(笑

かと言って、親の病気や他界で、なにも知らないまま社長になるも避けたい・・・。

むずかしいですよね。

さて、前置きはこれぐらいにして、初回コラムでは、私が、後継者にはもっと幅広い情報が必要だ!
と、感じた事件についてお話したいと思います。

ある2代目社長に呼ばれて、自宅にお伺いしたときのことです。

相談者

「二度と会社には戻らない」
「独立開業するので、相談に乗ってほしい。」

理由は、いろいろあるようでした。
その理由を、ひとつひとつお聞きしたところ・・・

根本原因は、会長の判断能力低下、恐らく認知症でした。

会長に信頼されて、新事業展開を任され、着手していた社長。

しかし、会長の認知症で、株主でもある会長夫人(社長の母親)が実権を握り、
いままでとは真逆の保守的な経営で、新事業は全部却下されたのです。

頼みの会長は、夫人の言いなり。
夫人の言葉を、おうむ返しのように話すだけで、考える力は、ほとんど残っていないようでした。

事業承継で親子喧嘩はつきもの。
時間が解決して、仲直りするケースも多々あるのですが、認知症になられると仲直りは、絶望的です。

相談者

「いままでの苦労はなんだったのか」
「なんのため親の会社に入社したのか」
「私の5年を返して欲しい」

と、コーヒーやお茶を何度も頂いて、5時間近くお話を聞いて、最後に

相談者

私が会社を継ぐ、と言わなかったら・・
今でも、お父さんと、仲良く暮らせてただろうなぁ・・

と、遠くを見てつぶやかれました。

もともと、兄が会社を継ぐ予定の会社だったようです。
しかし、兄が会社を継がない決断をし、お父さんが継いで欲しそうだったから、
と、社長になる決断をしたとのこと

相談者

あの時、継ぐ決断さえしなければなぁ・・

と、しばらく黙ってしまいました。

この時、社長は自社株を10%程度しか持っていませんでした。
残りの自社株は、会長と会長夫人が均等にもっていたので、代表権はあったものの、いわゆる雇われ社長の状態でした。

中小企業は株主のもの

株主が新事業にNOを出したら、残念ながら新事業はあきらめるしかないのです。

お父様の症状が良いときに、事情を説明して自社株を贈与してもらいますか?
すると、社長は55%株主になり、お父様とお約束された新規事業は再開できると思いますが・・・

お母さまとの関係は、徹底的に壊れますし、贈与税は数億円になると思われます・・・
と、お話したところ、心が決まったようでした。

後日、なんとかならないものかと、会長にお会いしたら、

会長

「息子が出ていったまま帰ってこないんだよ」
「なんで出ていったのかなぁ」
「帰ってきてくれないかぁ」

と、自分が出ていけと怒鳴ったことも忘れ、寂しがられていました。
私の顔も名前も忘れており、症状は、かなり進んでいる感じです。

一方、昔は、黙って話を聞くだけの会長夫人は、人が替わったようでした。

男尊女卑の古いタイプの会長が、認知症で夫人がいないと生活ができなくなり、
積年の恨みを晴らすかのように会長に大声で指示している姿に、いたたまれなくなり、
早々に、その場を退散しました。

今、考えると、社長が計画していたテナントビルも、投資した有価証券も、そのまま続行していたら大きく儲かっていました。社長と会長の読み(経営判断)は正しかったのです。

しかし、夫人の意向で、有価証券は少しの損を出して手放してしまいました。
そして、建材も、金利も上昇して、二度とあの計算ではビルは建てられない、幻の計画となってしまいました。

私は、あの時、万が一、会長が認知症になったらこんなリスクが内在しています。
と、キチンと説明すべきだったと、今でも後悔しています。

当時、いろんな方から認知症対策について相談を受けていて、打つべき対策は頭の中にあったのです。

しかし、会長から、私の家系では、誰も認知症になった人はいないから大丈夫。
と、言い切られて、認知症対策の説明はしていませんでした。

高齢者の5人に1人がなる認知症。

会長の認知症を避けることは難しかったのかも知れません。
しかし、社長に、認知症対策の方法を、詳しく説明しておけば、手は打てたハズです。

万が一、会長の判断能力が低下したと感じたら、ご連絡下さいとご説明していたら・・
と、思うと、今でも心が痛みます。

この申し訳ない気持ちが、私が、事業承継に向き合う原点です。

継ぐ決断さえしなければ・・・

いかがでしでしょうか?

後継者は、親の自社を知り、親の相続対策を知ることが必要なのです。

しかし、親子の会話不足で、自社を知る機会もなく、親の相続対策を知る機会もない。
そんな後継者の皆様に、もっと情報を届けるべきだ!!

会社を分析して、相続対策を評価できるのは、相続に強い中小企業診断士しかいない。
そう強く思った事件でした。

次回からは、皆さんと一緒に具体的な「承継不安」について考えていきたいと思います。
ご相談、コラムのご感想などがあれば、お問合せから、ご連絡頂けると幸いです。

投稿者プロフィール

tamaki
tamaki
本研究会 代表
後継者の決断コンサルタント™
大手証券で相続・事業承継の専門職を経験。のべ1000社以上の経営者と面談。親子の会話不足が、後継者の情報不足を生み、承継を困難にしていると実感。後継者にもっと情報提供すべき。と説く中小企業診断士59歳。神戸市出身。

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