親が納得するまでが決断!?

コラム:承継不安の処方箋

「あなたが本当に“決断した”と言えるのは、いつでしょうか?」

前回のコラムでは「継がない決断」について触れましたが、
今回はこの「決断」を深堀します。

それは――決断とは、心の中で思うだけではダメというお話です。

後継者候補の方と話していると、
私は、継がないと決断しています
とはっきり言われる方がよくいます。

しかし、

「それ、社長にお話されましたか?」
と尋ねると、
「いえ、社長には、まだ言い出せなくて…

と続くことが多いのです。
この状態で、決断と言えるのでしょうか?

心の中で「継がない」と決めているだけでは、それはまだ“案”の段階です。
周囲も「あの人は決断した」とは思いません。

決断とは
親に対して継ぐ・継がないの意思を説明し、
納得を得るところまで
含めて初めて成立する

私は、こう考えています。

どれだけ固い決意を持っていても、
親に伝えていないのなら、
外から見れば「まだ迷っている人」ですよね?

私は、仲良くなった二代目・三代目の社長には、必ず質問することがあります。
「社長はどのように継ぐ決断をされたんですか?」
すると驚くことに、かなりの方がこう答えるのです。

実は、継ぐ気はなかったんだ」
「本当は別の仕事がしたかったんだが……流れでね」と、

以前ご紹介した社長は、兄が継ぐ予定だったのに突然辞めてしまい、
お鉢が回ってきた形で継いだ方でした。
その結果、父親の認知症、家族の不仲などが重なり、

「継ぐと言わなければよかった」

と深く後悔していました。

心の中で継がないと思っていても、
親を納得させなければ、結果的に周りに押し切られて継いでしまう
という事例が多く存在するのです。

ではなぜ親に伝えないのか?
その理由を尋ねると、ほぼ全員が同じ悩みを抱えています。

どうせ納得してくれないと思って……」

と、
これは心理学でいう「認知的不協和」の状態。
この不快感で、考えるのを停止してしまうのです。
つまり、

自分は継ぎたくない
でも親の期待には応えたい

などの矛盾が強い不快感を生むため、
できるだけ考えないようになり、結果、話を先延ばしている状態です。

さらに詳しく聞くと、別の問題も見えてきます。

「お父さんの会社は、どんな会社ですか?」
「社長の仕事内容は?」

と尋ねると、返ってくる答えは、
詳しくは、知りませんが……
というHPにある程度の答え、、

つまり、

親の会社を詳しく知らない状態で、“継がない”、と言おうとしている
これでは、親に納得してもらえるはずがありません。

例えば親から、
「この壺をお前に譲ろう」
と言われたとします。

その価値も聞かず、調べもせずに、
「いらない」
と言えば、親はがっかりする
でしょう。

しかし、
「これは○○時代の貴重な壺なんだね」
「絵柄も美しくて素晴らしいと思う」
「でも私は骨董に興味がなく、大事にできそうにない」
「だから、この壺を本当に大切にしてくれる人に譲ってあげてほしい」

と言われたらどうでしょう?
同じ“断り”であっても、親の受け止め方はまったく異なります。

会社も同じです。

親にとって、人生を賭けて築いた、汗と涙の結晶の会社。
その会社をよく知らないまま、「継がない」
と言われれば、親が反発するのは当然
です。

だからこそ、
まずは、親の会社を正しく理解すること
これが納得を得るための第一歩
です。

例えば、こう話してみてはどうでしょうか?

「お父さんの会社は本当にすごい会社だね」
「これをゼロから立ち上げたお父さんを尊敬している
「この会社の社長には、お父さんのような○○力や○○力が必要だと思う」

「でも私は○○が苦手で、これはお父さんも知っているよね」
私の得意なのは○○、やりたいのは○○で、それで生きていきたいと思っている」

「だから大事な会社は、他の方に引き受けてもらった方が会社のためにも良いと思う」
「私は私の得意分野で頑張るから、応援してくれないかな?」

こう説明すると、
頭ごなしに、あなたの決断を否定される可能性は低くなると思いませんか?

決断とは、心の中の決意ではなく、
相手を納得させる実行を伴って初めて成立します。

継ぐにせよ、継がないにせよ、
「親に説明して納得を得る」というプロセスを踏むことで、
あなた自身の人生が他人の期待ではなく“自分の意志”で動き出すのです。

いかがでしたでしょうか?

敵を知り、己を知らば、なんとやら・・・
継ぐにせよ、継がないにせよ、
まず、親の会社を知る、という事が大事

というお話でした。

ご質問・コラムのご感想などがあれば、お問合せから、ご連絡頂けると幸いです。

投稿者プロフィール

tamaki
tamaki
本研究会 代表
後継者の決断コンサルタント™
大手証券で相続・事業承継の専門職を経験。のべ1000社以上の経営者と面談。親子の会話不足が、後継者の情報不足を生み、承継を困難にしていると実感。後継者にもっと情報提供すべき。と説く中小企業診断士59歳。神戸市出身。

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